道新コラムのトップ 貸本屋について TOP
人気ランキング マンガ家別人気マンガランキング 店主オススメ
レンタルのシステム
(2002年2月15日付け道新夕刊) 漫壇 北の名作 第5回目
「王道の狗」安彦良和 開拓史見据えた大作 |
安彦良和といえば、若い世代の人にとっては、アニメ「機動戦士ガンダム」が真っ先に浮かぶのかもしれないが、中年の私は後のマンガ作品、金星を舞台にしたSF活劇「ヴィナス戦記」とクルド人問題を扱った「クルドの星」で彼と出会った。最近では、満州を舞台にした硬派の歴史もの「虹色のトロツキー」が強い印象に残る。 さて、「王道の狗(いぬ)」だ。時は明治二十二年(一八九九年)。上川地方の「石狩道路」建設現場で働く囚人の中に、自由党の壮士だった、主人公・加納周助と風間一太郎がいた。政府は過酷な労働で囚人が死んでも経費節減になると考えていたから、二人は生き延びるため脱獄を決意する。物語は、この脱獄シーンから始まる。 二人は逃亡中、アイヌ民族の猟師との出会いを経て上京。勝海舟、陸奥宗光らと交わり、権謀術数う ごめく歴史の大きなうねりに飲み込まれていく。 和人に労働力として連れ出されたまま戻らず、アイヌ民族の集落が崩壊していったり、猟師の持ち込んだ毛皮とクマの胆(い)に正当な対価を払おうとしない商人がいたことは、当時ままあったに違いない。その一方、二人が最初に落ち着いた湧別の農家・徳弘正輝(実在の人物)はアイヌ民族の女性を妻に迎えアイヌ民族に畑作を教えている知識人だ。 網走管内遠軽町出身の作者は、開拓当時の歴史を見据えた上で、まだ混とんとしていた道内を、主人公・加納の再生の場に選んだのだと思う。この作品は、読みごたえのある歴史ロマン大作(全六巻)で、平成十二年度文化庁メディア芸術祭・マンガ部門の優秀賞を受賞している。 本作を読んだのをきっかけに、犠牲となった囚人たちの墓が同管内端野町に鎖塚≠ニして残っていることや、あの網走刑務所も開拓の基地であったことを知った。この囚人労働を引き継ぐかたちになったのが、悪名高いタコ部屋§J働だったことも。 普段何げなく通り過ぎている道路や線路の近くには、先人のいくつもの無念さが今も眠っているのかもしれない。そう考えると、元気のなくなるニュースばかりが多い今こそ、子孫たるわれわれがけっぱらなくっちゃと思う。 (マンガ専門貸本店「夢の屋」店主) |
(コラムには字数制限もあるので、もうちょっと) 明治二十年代初頭、不凍港を求め南下政策をとるロシアの進出に備え、未開発地であった北海道東部の軍事的価値が重視されて、網走までをつなぐ幹線道路の開削が決定された。時の政府が安い労働力して目を付けたのは囚人であり、北海道各地にどんどん集治監(監獄)が作られ全国から多くの重罪の囚人たちが送り込まれた。というのが、本作出だしの時代背景である。 それにしても、北海道開拓の歴史を考えるとき、先住民族アイヌの犠牲、囚人労働とタコ部屋労働、そして遊廓(先に本コラムで取り上げた「親なるもの 断崖」曽根富美子でその悲惨さが活写)は、陰の部分として忘れてはならないのだとつくづく思う。けれども、これらについて、学校の郷土史や日本史では、どう触れられているのだろうか。私の高校時代の日本史で何か説明があったという記憶は残っていないけど。 |
「王道の狗」全6巻(ミスターマガジンKCDX、A5判、講談社)
「ヴィナス戦記」全4巻(ノーラコミックス、B6判、学習研究社)
「クルドの星」全3巻(少年キャプテンコミックス、新書判、徳間書店)絶版か?
「虹色のトロツキー」全8巻(希望コミックス、A5判、潮出版社)
(2002.4/6追記)
北海道函館市を舞台とした新作マンガがありました。謎のロシア人少女を巡る冒険アクションものです。
なんと古文書「東日流外三郡誌(つがるそとさんぐんし)」に出てくるアラハバキ神とつながりでもあるかのような「アラハバキ党」という設定がうれしい。
「韃靼タイフーン」全2巻(MFコミックス、B6判、メディアファクトリー)
道新コラムのトップ 貸本屋について TOP
人気ランキング マンガ家別人気マンガランキング 店主オススメ
レンタルのシステム