道新マンガコラム

親なるもの 断崖曽根富美子
今回から、コラム名が「漫壇 ただ今貸出中」から「漫壇 北の名作」に変わりました。

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(2001年10月12日付け道新夕刊)第1回目 漫壇 北の名作
親なるもの 断崖曽根富美子  室蘭の遊廓描いた人間ドラマ
 今回から北海道が舞台となった作品を取り上げる。初回は、売春防止法施行まで室蘭(作者の出身地)に実在していた、政府公認の幕西遊廓(まくにしゆうかく)≠舞台にした重苦しく壮絶な人間ドラマだ。
 昭和二年、まだ寒い北海道の春、青森の貧農から四人の少女が遊廓に売られてきた。室蘭に着いて周旋屋に真っ先に連れて行かれた所が地球岬。吸い込まれそうながけを前に、少女たちは「死にたくなったら断崖に来い」と言われる。主人公お梅の姉・松恵は遊廓に到着したその夜、早速女郎として客を取らされ、自殺してしまう。お梅は芸者見習いになるはずだったが、大好きだった姉の墓の費用のために、女郎の道を選んだ。お梅、この時十一歳。やがて幕西一と評判になったお梅は、反政府運動をしていた学生・中島聡一と出会い、愛し合う。官憲の手が伸びる聡一との駆け落ちを試みるが失敗する。死を覚悟したお梅が聞いた断崖の言葉は、「生きろ!生きていけ」だった。
 そんなお梅を妻に迎えたいという身請け話があった。青森から一緒に来た武子に、生きられなかった赤ん坊や松恵たちの「魂を宿す女を産むのや」とさとされ、白むくで幕西を出るところで第一部が完。第二部の主人公はお梅の娘・道生(みちお)。道生も「女郎の子」と言われ、つらい人生を歩む。そんな道生のためにお梅は悲痛な決意をする─。
 かつて日本の各地にいたであろう、家族を守るために幼くして身を売るしか生きるすべのなかった女性たち。第二部では、銃後の生活や空襲なども活写されている。道生のように率直に言いたいものだ、「戦争はきらいだ」と。
 北海道にとどまらず、かつての日本の陰の歴史を描いた傑作だと思うのだが、語りつぎたい作品というのは、得てして絶版だ。
 作者は本作の後もカードーローン地獄、学校でのいじめ、薬物依存症など、社会派作品を発表している。重い内容ばかりだが、曽根作品ファンの女性は当店では多い。
              (マンガ専門貸本店「夢の屋」店主)

(コラムには字数制限があるので、もうちょっと)
 お梅の姉・松恵は、自殺した時、16歳。当然、松恵の借金はお梅が背負うことに。一緒に来た武子13歳は半玉として厳しい修行の毎日、そして道子11歳は下働きだ。
 足抜けに失敗したお梅は、肉体や精神を病んだ女たちが集められた部屋に入れられ、今まで以上に悲惨な毎日が始まる。
 そんなお梅を妻に迎えた日本製鉄(当時のエリート会社)の社員・大河内茂世は、軍国主義の嵐が吹き荒れる時代にあって、鉄は平和産業と信じている異端児だ。
 第二部では、日本製鉄で働かされて死んでいった捕虜や強制連行の中国人・朝鮮人、タコ部屋労働者たちにも触れられている。当時は当たり前だったのだろうが、軍人の防寒服を作るため、道生の愛犬にも召集令状が来る。
 遊廓が舞台ということで性描写の多い作品だけれども、学校で性教育をしている時代なんだし、高校生売春も問題となっている時代なんだから、高校の日本史の副読本として読まれても、何ら不思議ではない作品だと思っている。
 なお、本作は、1992年の日本漫画家協会賞優秀賞を受賞している。 

「親なるもの 断崖」全2巻(エメラルドコミックス、A5判、主婦と生活社)絶版

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