道新マンガコラム 「愛のアランフェス」槇村さとる

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(2002年8月9日付け道新夕刊) 漫壇 北の名作 第11回目
「愛のアランフェス」槇村さとる   氷上の舞台に賭けた青春
 軽やかな氷上の舞踏─。冬季スポーツの華といえば、フィギュアスケートだ。国際大会の上位入賞者によエキシビションは、見る者を魅了してやまない。
 一九七八─八○年に「別冊マーガレット」で連載された本作は、フィギュアのエキシビション大会で幕を開ける。選手たちの演技をひっそり見つめるのは、再起不能説もささやかれる男子の天才スケーター黒川貢。そこへ制止を振り切って突如飛び入りし、トリプル(連載当時、三回転を成功させた女子選手はいなかった)などの華麗な技をきめる謎の天才少女が現れる。これが、釧路から東京へ転校してきたばかりの高校生・森山亜季実。ヒロインだ。
 亜季実の父は、絶頂期に引退し公の場から姿を消した往年の名フィギア選手。母の死のショックを乗り越え初めての大会で二位となった亜季実は、互いに触発しあう黒川とペアを組むことを決心する。シングルではメダルも夢ではない二人だが、ペアではさまざまな試練が待ち受けるのだ。
 本作は、二人の苦悩と精神的成長を描いた青春ドラマにほかならない。シングルとは全く違うペアという世界での焦りと不安、そしてひかれあう二人の気持ちの行き違いが描かれる。
 つらい時、亜季実を支えるのは、ふるさと釧路での思い出だ。洗濯したオムツを干すとばりばりに凍ってしまう、道内での生活に幸せを感じていた亡き母。幼い日の 亜季実が「おどってる」と喜んだ、釧路湿原を舞うタンチョウ。練習に打ち込んだふるさとでの日々。苦しんだときに帰っては立ち直る地として釧路が描かれる。
 そして物語のラストは、この北の地。舞台は、札幌・真駒内アイスアリーナだ。日本初の世界選手権級大会。哀愁に満ちた調べをギターが切々と歌うロドリーゴ「ア ランフェス協奏曲」に乗って、愛し合う二人はフリー演技を華麗にきめる。
 なお、作者が後にアイスダンスを描いた「白のファルーカ」には、本作で二人のライバルだった筒美と貝谷とがコーチとして登場している。
             (マンガ専門貸本店「夢の屋」店主)

(コラムには字数制限があるので、もうちょっと)
 物語が面白くなるのは、惹かれあう二人の依存心といたわりがペア競技では障害になってしまうことに気づいた黒川が、このままではいけないと単身ヨーロッパへ旅立ってからだ。そしてもっとも感動的なのは、日本とヨーロッパとに離れている二人が、同時刻にそれぞれの競技会場で、シングルでペアのための「アランフェス協奏曲」を舞うシーンだ。

「愛のアランフェス」全7巻(マーガレットコミックス、集英社、新書判)絶版
「愛のアランフェス」全4巻(集英社文庫)

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