道新マンガコラム 「メス」柿沼宏・原作、松森正・画

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(2002年7月12日付け道新夕刊) 漫壇 北の名作 第10回目
「メス」柿沼宏・原作、松森正・画   医局の暗部 鋭くえぐる
 手塚治虫の人気作品「ブラック・ジャック」が始まっ たのは昭和四十八年(一九七三年)。ちょうどこのこ ろ、青年誌で連載されていた医者ものマンガが本作だ。
 主人公は、札幌の私立病院で診療することになった三 十四歳の独身医師・式根修平。式根は国立北星大学第一 外科教室に助手として籍をおき、専門は胸部外科、メス さばきも鮮やかな俊才だ。第一話は、製薬会社と癒着す る院長とその不正を探る式根を描いて始まるように、全 十五話で描かれるのは、医療現場の病巣だ。
 カルテの改ざん、私立病院と医大との癒着、人体実験 まがいの手術、医局内の派閥争いと、暗部をえぐってや まない。教授が心筋梗塞(こうそく)で倒れると、その イスをめぐって、教授は命までも狙われる。寡黙でクー ルな式根は文字通り鋭いメスをふるって、病院と大学医 局にたまるうみをかき出しながら、同時に自らの野望に 向けての足固めをしていくのだ。
 札幌の風景が多数登場する本作は残念ながら絶版だ が、手塚治虫以外の手による本格派の医者ものマンガの 先駆ではないかと思う。昭和四十三年(六八年)には、 札幌医大で、日本で初の心臓移植手術が行われており、 そのこともあって、舞台が札幌に設定されたのではない かと連載当時に感じた。
 原作の柿沼宏はこのあと、武本サブローと組んだ「カル テ」、そして篠原とおるとの「夜光虫」を手がけた が、それ以来名前を見かけない、医者もの専門の謎の原 作者。一方、松森正は、秘境の温泉宿で働く元・殺し屋 が主人公の「湯けむりスナイパー」を現在連載中で、こ れは筆者のお気に入り作品のひとつとなっている。
 本作が描かれてから三十年近い。だが、日々伝えられ るニュースを見ると、門外漢ながら医療の現場はあまり 変わっていないのではと感じる。式根は、研究室を主宰 する講師となり私立病院での診療を辞めて「私の劇はこ れから始まる」と去ったが、その後どう戦い今どうして いるのだろうか?
             (マンガ専門貸本店「夢の屋」店主)

(コラムには字数制限があるので、もうちょっと)
 医学という未知の世界に少しは関心を持つようになったのは、昭和43年に行われた日本で初の心臓移植手術の舞台が札幌だったということと後に事件にもなり、かなり長期にわたってそのニュースに接したためかもしれない。
 各話で描かれている病巣を詳しく書くと、医者のミスを隠すためのカルテの改竄、覚醒剤の原料薬品の紛失、病理解剖での病院と医大との癒着、博士号論文の売買、道立病院の医長指名をめぐっての陰謀、「公立病院は練習のためにあるようなもの」といって専門外の手術をする医者、次期助教授選へ向けての医局内の醜い争い、その過程で発覚した教授(式根の恩師)の命令で行われたという昔の人体実験、講師就任の見返りに部下の研究データを横取りする教授、講師就任を阻止しようとその担当手術で邪魔をする医局員…など。
 30年前に比べると、医療技術は格段と進歩しているのだろうが、それに伴って医療体制(医局という伏魔殿、研修医制度、看護婦などの過重労働など)というか、医療に関わる人間そのものが変わってはいないということか。
 オヤジも死んだオフクロも病院には何度も世話になっており、看護婦という仕事はホント大変だと感じたし、感謝しているけれども。
 医者ものマンガと言えば、手塚治虫が昭和45年に「きりひと賛歌」という社会派ものの連載を開始しているが、これが本格的な医者ものマンガに接した最初ではないかと思う。これは私にとって青年マンガ誌で同氏の存在を初めて意識した作品だ。
 今回、読み返して思い出したのは、山崎豊子原作の「白い巨塔」の映画とテレビドラマで主役・財前五郎役を演じた田宮二郎だ。クールな野心家・財前と式根がダブる。未見だが、昭和49年には映画化もされているようなので、当時としてもそれなりの話題作であったようだ。

「メス」全2巻(小学館)絶版、B6判と文庫判がある

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