道新マンガコラム 「銀の魚 銀の波」坂本こうこ

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(2002年6月14日付け道新夕刊) 漫壇 北の名作 第9回目
「銀の魚 銀の波」坂本こうこ   ニシン場描く大河ドラマ
 かつて北海道にニシンの大群が押し寄せた。海が魚の白子で白く染める群来(くき)─。ニシンは、この北の島とそこに生きる人々に富をもたらし、漁をめぐっては数々のドラマが生まれたという。板本こうこは、江差追分にうたわれる小樽の忍路生まれ。本作は、ニシン漁の網元だった父をもつ彼女が、満を持して描いた感動のニシン場物語だ。
 舞台は、明治二十年ごろ、ニシンの大漁で沸く小樽近くの村。網元・大潮家の跡継ぎ・春介のもとへ、いいなずけの優里子がやって来た日、主人公である孤児の少女・海多(うた)は魚を盗んで、帳場を預かる湊銀次に捕まってしまう。そして海多は、優里子の小間使いとして大潮家に雇われることになる。
  数年後、網元を継いだ春介は、海運業から手を引き、事業を漁一本に集約。その古い帆船を海多が借り受けて独立し、銀次が補佐役を買って出る。二人は船の焼失などを支え合って乗り超え、やがて結婚し湊海運を起こす。
 物語はこの四人を描いて幕を開け、湊家と大潮家の子どもたちの代、さらに孫の代へと進展していく。魚を満載して大時化(おおしけ)に立ち向かう命知らずの航 海、網元の前に札束の詰まったニシン箱が積み上げられる光景、不漁の翌年、大きな借金をして出稼ぎ者を集めに行く網元の大バクチ的行動…。そんな挿話には、作者が両親から伝え聞いた話が散りばめられているにちがいない。
 本作からは、北のニシン場に生きた女たちの悲しみと喜び、そして男たちが抱いた夢が、大漁の浜と船上のけん騒とともに、伝わってくる。また、「女(母)の強 さ」も作品を貫くテーマだろう。言い添えれば、海の女を描いた作品は、筆者の知る範囲、本作が最初だ。
 さて、札幌の街にもまもなく「ソーラン、ソーラン」のかけ声が響く。YOSAKOIソーラン祭りだ。色とりどりの衣装をまとった人々の群舞が、今年も街を染め 上げるだろう。それは、北の地に出現する、現代の群来のようにも見える。

             (マンガ専門貸本店「夢の屋」店主)

(コラムには字数制限があるので、もうちょっと)
 道東生まれなので、ニシンにまつわる昔話には縁がなかったが、何かで読んで言葉だけは知っていた群来≠ニいう現象を数年前に初めてテレビで見た。北海道ではその後何度か群来が観察されているらしい。日本海沿岸ではあれがかつて春を告げる風景だったとのことだ。
 ニシンとは関係ないが、子供の頃、何故か港の中の砂浜近くに大量のイカが押し寄せて、手づかみで取り放題だったことがある。近くに住む人が結構集まり、皆夢中になって取ったけど、海面がイカで染まっていたあれは一体何だったのだろう?
 海の男を描き続けたマンガ家に昨年亡くなった土佐の青柳裕介がいるけど、海の女を描いた女性マンガ家は坂本こうこが最初だろう。もっとも、本作のような作品は近親者か身近に取材源がないと、なかなか描けないと思うし、作者の両親がそうだったからこそ、描く動機付けにもなり、誕生した作品だ。なお、カバーには「北海道鰊漁三代記」という副題がある。 

「銀の魚 銀の波」全1巻(講談社)

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