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（２００２年５月１７日付け道新夕刊） 漫壇 北の名作 第８回目
| 「狼の碑 エゾオオカミ絶滅記」本庄敬・画、戸川幸夫・原作 開拓が生んだ悲劇描く |
| 動物などの生態を撮ったテレビのドキュメンタリーを好んで見ているが、読み応えのある動物マンガとなると、これが意外に少ないものだ。それは、動物の生態や自然の描写などに深い知識が必要だからだろう。後志管内寿都町出身の本庄敬は、動物、自然にこだわって作品を描き続ける数少ない書き手の一人だ。 時は明治１０年、舞台は日高地方。アイヌ民族が恐れと尊敬の念を込めて「ホロケウカムイ」と呼んでいたエゾオオカミ、そして移住士族を父に持つ少年・隆永（たかなが）が本作の主人公だ。隆永は急流に落ちたオオカミの子を助けたことから、オオカミたちに接近を許され、交流を始めるようになる。 ところで、本道の原野を駆けめぐっていたオオカミが主食としていたのはエゾシカだった。しかし、そのシカは、人による乱獲に加え、「開拓」の名の下にすみかである森林が次々と伐採されたこともあって激減していく。生態系のバランスは崩れ、オオカミはエサを求めて牧場の家畜を襲うようになったのだ。 牧場の放棄かオオカミの絶滅か─。物語は、北海道畜産の父である開拓使顧問エドウィン・ダンの苦悩も描き出す。ダンは日高の牧場視察で、子馬などが殺傷される被害を目のあたりにし、畜産発展のためにはオオカミを毒殺して撲滅する以外にないと開拓使に進言することに…。 かくして、エゾオオカミは明治２０年代に姿を消す。本道開拓の本格化からわずかの間に、一つの種が人間の手によって消されてしまったのだ。今、日高の風景といえば、広大な緑の牧場とそこを駆ける馬たちの姿が思い浮かぶ。しかし、本作は、この風景がはらむ悲劇の歴史を思い起こさせずにはおかない。 本庄には、本道の大自然をバックにした作品として「父物語 斧」「朔風の挽歌」もある（本作を含めいずれも絶版）。また、近作の長編「ＳＥＥＤ」では、荒れ地にまくためにいつも種入りの粘土団子を持ち歩く農業コンサルタントが主人公だ。自然と人間との共生というテーマを扱い、世界各地を舞台にした一作一作が「開発とは何なのか？」と考えさせる重厚なシリーズとなっている。人間と自然について、いま一度考えてみるためにも、本作と併せてこちらもぜひ一読を勧めたい。 （マンガ専門貸本店「夢の屋」店主） |
| （コラムには字数制限があるので、もうちょっと） 動物ものだと、私のお気に入りマンガ家は、野生動物なら白土三平と谷口ジロー、恐竜を描かせると星野之宣だ。最近見かけないけど、石川球太も良かった。そして矢口高雄もいる。 狼という動物が気にかかるようになったのは、平井和正のアダルト・ウルフガイ・シリーズを読んでからだと思う。西村寿行の作品にも狼は結構登場した。ＴＶのドキュメンタリーでも何度か視たが、群を作って狩りをするのだけれど、そのイメージは〝孤高の精神〟だ。だから、惹きつけられるのだと思う。 海外では、森林の生態系を回復するため、絶滅した狼を他地区から移入しているところもあるとのことだ。北海道でエゾシカが増え過ぎて問題となっているのは、天敵であるエゾオオカミがいなくなったからのようだ。将来いつか、北海道の森にも海外から狼が・・・ということがあるかも。 本作には、「この作品は戸川幸夫著『狼の碑』『悲しき絶叫』を元に取材し、新たに構成されたフィクションです。」とある。この原作を読んではいないけれど、自然にこだわっている作者ですから、原作を充分消化されたのだと思う。なお、「ＳＥＥＤ」の原作者・ラデック鯨井とは、あの『ＭＡＳＴＥＲキートン』の原作者・勝鹿北星の別名だ。 慣れ親しみ、そこに当たり前のように存在している、一見〝ありふれた〟自然環境も、いつ何どき〝開発〟という名でその生態系が破壊されるかもしれない危うさの上にあることを、「ＳＥＥＤ」を読んで改めて感じた。 話は変わるが、わが貸本屋稼業も、家賃を払っての商売としては将来絶滅する種かもしれないというのが実感だ。 |
「狼の碑 エゾオオカミ絶滅記」戸川幸夫・原作（秋田書店）少年チャンピオンコミックス（新書判）絶版
「父物語 斧」全３巻、原案小説・稲見一良、原作・安房野遊人（小学館）少年サンデーコミックス（新書判）絶版
「朔風の挽歌」全５巻（秋田書店）少年チャンピオンコミックス（新書判）絶版
「ＳＥＥＤ」第１～９巻（連載は終了したのか？）原作・ラデック・鯨井（集英社）ヤングジャンプコミックスＢＪ
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