道新マンガコラム

票田のトラクター画・前川つかさ、原作・ケニー鍋島

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(2001年1月19日付け道新夕刊)第9回目 漫壇 ただ今貸出中
票田のトラクター画・前川つかさ、原作・ケニー鍋島   政治屋の世界こんなもん
 当店で常に人気の作品に、街(まち)金融というゼニの世界から人間を描いた「ナニワ金融道」(作・青木雄二)があるが、政治から人間を描いた傑作と言えば、本作しかないと私は思っている。いや、国民不在で混迷を続けている現実世界のおどろおどろしさにはさすが及ぶべくもないのだろうが、政治ジャーナリストだという原作者が描いた「政治屋」たちの世界は「ホント、こんなもんなんですよ」と読者に迫ってくる。
 主人公・筒井五輪(ごりん)は印刷会社を経営する通称選挙の源さん≠フ次男坊だ。金稼ぎの才覚とずうずうしさは人一倍だが、大学卒業後、就職もせずに家でぷらぷらしている。そんな五輪に父は、民自党幹事長の筆頭秘書・稲山一郎が次の選挙に出馬するので、秘書になるよう勧める。十年間の秘書生活で稲山の父の会社が大きなビルになったと聞き、がぜんヤル気になった五輪。採用試験は、ポスター一万枚を三日で町中に貼るというものだ。五輪はこの難題を二日でクリアし、晴れて代議士候補の末席秘書となる。
 次の仕事は「励ます会」のパーティ券三百枚の販売。同じ地盤を争う民自党権木派に内紛があると知った五輪は、その後援者を説き伏せてパーティ券を購入させ、自陣に引き込んでしまう。派閥争いによる公認もれ、怪文書の配布などの危機を金と口利きによる後援会作りや五輪の奮闘で乗り切り、稲山は衆議院議員に当選。五輪の議員秘書生活も始まるが、活躍する五輪の口癖は「やめられねーづらよォ〜」だ。
 一九九一年に完結した本作の約二年後に続編も描かれ、全部で十七巻。さらに現在、週刊ポストでも連載中だ。政治の舞台裏を見事に描いたこの作品が、新人議員秘書や選挙関係者の間でひそかに読み継がれているのではないか、と私は勝手に想像しているのだが、前述の「ナニワ金融道」の人気にぶりに比べると、なぜか当店ではこちらはさっぱりだ。
 原作者が八年前に評した「現在の政局は漫画(コミック)そのもの」は、情けなや、新世紀の今現在にも当てはまっている。さあ、これを読んで「ふざけんなー」と腹を立て、選挙があったら投票に絶対行こう。
                  (マンガ専門貸本店「夢の屋」店主)
「票田のトラクター」(小学館) ビックコミックス(B6判)全4(こちらは絶版かもしれませんが、古本屋でなら見つかるはずです)
「新・票田のトラクター」(小学館) ビックコミックス(B6判)全13

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