道新マンガコラム

花の慶次─雲のかなたに─原哲夫作、隆慶一郎原作

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(2000年10月20日付け道新夕刊)第6回目 漫壇 ただ今貸出中
花の慶次─雲のかなたに─原哲夫作、隆慶一郎原作   「快男児」にきっとホレる  (集英社)
 「マンガばかり読んで…」と昔の親は子供をしかったものだけれども、今ならさしずめ「テレビゲーム」か「長電話」がやり玉にあがっているのだろうか。今やマンガを読んで育った世代が親になっているのだから、親子一緒に当店に借りに来る客も結構いる。そんな親の世代の人たちにもぜひ勧めたいのが、この「花の慶次」だ。本作は当店の時代ものマンガでは格段に人気があり、性別・年代を超えて広く読まれている。
 マンガがキッカケで、あるものに関心を持ったり知識を得たりすることがあるが、私もこのマンガに出会って、小説家・隆慶一郎の存在を初めて知った。
 世は戦国時代末期、天下一の傾奇者(かぶきもの=奇をてらった姿・行動を好む、権力にも屈しないしんの通った「ツッパリ」)の前田慶次が、大柄な自分が騎乗できるデカい野生馬を手に入れようとするところから物語は始まる。慶次はしたたかに、だが自由に生きた一匹狼(おおかみ)。この原作が、隆の小説「一夢庵風流記」だ。
 本作を読んだ時、マンガ家・原もほれたという慶次(原作では慶次郎)のキャラクターにすっかり魅せられてしまった。当時はまだ雑誌連載中で、続きが気になってしようがなかったので、原作を購入して一気に読破した。時代小説では、司馬遼太郎「竜馬がゆく」の坂本竜馬以来の魅力的なキャラクターだろう。
 また、マンガの方も、続巻が出るたびに独立した作品として楽しませてもらった。物語は利休の切腹のあと、原作では朝鮮侵略のための偵察に慶次が朝鮮へ派遣されるのだが、マンガではイスパニアの謀略うごめく琉球へ渡ることになる。これが両者とも独立して楽しめるゆえんでもある。
 原作を読んだ人もそうでない人も、「気難しい美意識」を持つ快男児・慶次に会ってみませんか。また、まだ原作を読んでいない人は小説にも挑戦しましょう。再度ほれなおすことを保証します。
 同じ隆の小説「影武者徳川家康」も同じ原によってマンガ化されている。徳川家康が関ヶ原の戦いの時に殺されるという設定で、こちらも半端でない面白さだ。
 隆は一九八九年に他界。少ない史料の断片から魅力的なキャラクターを創造した隆氏に感謝し、合掌。
             (マンガ専門貸本店「夢の屋」店主)
「花の慶次─雲のかなたに─」(集英社) ジャンプコミックス(新書判)全18
「影武者徳川家康」(集英社) ジャンプコミックス(新書判)全6
「SAKON 戦国風雲録」(集英社) ジャンプコミックス(新書判)全6(上記の続編にあたる)
それぞれの原作である隆慶一郎氏の小説「一夢庵風流記」と「影武者徳川家康」とは、新潮文庫などで出ています。

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