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(2001年4月13日付け道新夕刊)第12回目 漫壇 ただ今貸出中
「イアラ」楳図かずお作 傑作ながらなぜか絶版 楳図かずおの傑作短編集に「イアラ」(小学館)という本がある。一九七○年代前後に青年誌に掲載された珠玉の中短編群が収録されており、作者の一番脂がのった時期だったのか、男と女の心理のやみを鋭くえぐった粒ぞろいの作品集だ。 だが、現在なぜか絶版状態にある。そのため古本屋などでも高値が付いている。不思議でならなかったので、楳図作品に詳しい人に尋ねたところ、絶版は作者ご本人の意向ではないらしいとのことだけれど。 収録短編の一つ「螺旋階段」は、大学を卒業したら平凡に結婚する予定だったフォーク部所属の女性が主人公。彼女は突然、TV局のスタッフに連れて行かれ、だれかの穴埋め代演なのかメーキャップされて観客の前に出され、口パクで歌番組の公開録画に出演する。だが彼女は歌い終わった時の「偽り」拍手が忘れられれず、すっかり人生の歯車を狂わせてしまう―。 七四年刊の新書判には中編「イアラ」を含め全三十四作品が収録されており、この本は、楳図と言えば「へび女」のイメージしか持っていない大人にオススメだ。 だが、これらのうち現在、かろうじて読めるのは、マンガ出版社の本ではなく、ちくま文庫「綾辻行人の選ぶ!楳図かずお怪奇幻想館」に収録されている二作品のみだ。 なお楳図作品で当店で一番人気があるのは、もちろんあの「漂流教室」。これをご指名で来店するお客さんは多いけれど、『イアラ』は長年絶版のため、こんな作品集があることさえ知らない人が増えているのではないだろうか。なんとか再刊を、と待ち望んでいる楳図ファンも多い。店主も長いマンガ読者人生の中で五本の指に入れたい傑作だと思っているのだが…。 同系列のシリーズ「闇のアルバム」は現在文庫に収録されているので、是非一読を。各作八ページの読み切りで、一編を除き一ページ一コマという特殊な構成だが、これも読み返す度に新たな感慨を呼び起こす奥深い作品群だ。 「イアラ」に限らず、「あの作品がなぜ絶版なの!?」という本はたくさんある。何とお寒い出版状況なことか。良い作品はヒットしなくとも着実に売れるはずだと思うのは、素人考えなのだろうか。そりゃ貸本屋としては、絶版は多いほど商売につながるのだけれども…。 (マンガ専門貸本店「夢の屋」店主) |
(2002.4/3追記)
下記「復刊ドットコム」での交渉もあって、[イアラ] が復刊(小学館 、2002.3月)されたけれども、
残念ながら収録されているのは、「イアラ 異色短編傑作選」(小学館、ゴールデン・コミックス、新書判、全6巻)のタイトルとなった「イアラ」と短編3作のみのようだ。
文庫 で320頁ということは、全6巻のうち4冊と半分がまだ絶版状態ということになる。
(2002.8/28追記訂正)
小学館のちょっと古い新刊チラシによると、「愛蔵版 イアラ」全3巻が4月末発売予定となっていたので、こちらには「イアラ」本編以外の傑作短編群も収録されている模様です。