「カムイ伝」白土三平 マンガ界の「七人の侍」
気がついたら、本しか財産といえるものがなく、 これを何とか生かして商売ができないものかと札幌市内で貸本屋を開いて十年目になる。 現在はマンガ専門で、ホームページも開いている。
これほどまでにマンガにとりつかれたのは、学生時代に出会った「カムイ伝」のせいだ。 そして今でも個人的に「マンガ界の『七人の侍』」と名付け、
これを読まずしてマンガを語るな、とすら思っている。 最初は友人に借りたのか
貸本だったのか記憶はあいまいだが、 その迫力に圧倒され、何とか自分の蔵書に
したくなった。 カネのない時代、札幌の古本屋を探し回って購入した数少ない
マンガの一つだ。
時は、江戸時代、社会の最下層に生まれたカムイは、その境遇からの脱却を図り、
忍者の世界へ。 しかしそこでも忍のおきてに逆らい、「抜け忍」となる。 農民のリーダーとなって改革を目指す正助、自らが属する武士階級への疑問を抱く竜之進、
金の力で権力に対抗しようとする商人・夢屋(私の店の名前は、この商人にあやかっている。しかしカネはない)。
多彩なキャラクターたちが身分制度に対し闘いを挑む、壮大なスケールの社会派大河ドラマだ。
第一部が完結して約三十年もたつのに、その登場人物たちやストーリーの輝きは失われていない。 十年ほど前にやっと第二部がスタートし、現在も断続的に「ビックコミック」(小学館)で連載中だ。 今から三十年ほど前にテレビアニメ化され、抜け忍カムイと追っ手との戦いを描いた「カムイ外伝」もある。 文庫判など何種か出ているが、私の持っているのは、 第一部全二一巻、「外伝」全二十巻、第二部は二十巻まで出ている。
初めて来店した女性がこの作品をご指名で借りて行ったことがある。二度借りに来た男性もいた。 だが、たいていは当店の定位置に全巻そろっている。 ただでさえ、時代物のマンガはあまり回転がよくない上に、
「カムイ伝」は暇つぶしの軽い気持ちで読むには、あまりにも濃厚な作品だからだ。 たまには「ただ今、貸出中」と答えてみたいものだ。
まずは、第一部、心してかかられよ。
(マンガ専門貸本店「夢の屋」店主)
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